横浜地方裁判所 昭和28年(ケ)119号 決定
債権者 殖産住宅相互株式会社
債務者 小野忠太
主文
1、当裁判所が本件について昭和二八年七月七日別紙〈省略〉表示の不動産に対し債権者のためにした不動産競売手続開始決定を取り消す。
2、債権者の本件競売申立を却下する。
理由
本件記録によれば、
(一) 債権者は、昭和二八年七月二日当庁に対し別紙表示の不動産について抵当権実行のため任意競売の申立をし、当庁昭和二八年(ケ)第一一九号不動産競売事件として係属し、当庁において同年七月七日不動産競売手続開始決定をしたこと
(二) 次いで債権者は、右競売における最高価競買人となり、昭和二九年六月二六日当庁から競落許可決定を受けたところ、債務者は、右決定に対し即時抗告の申立をしたこと
(三) 右抗告事件が東京高等裁判所に同庁昭和二九年(ラ)第三四三号事件として係属中の同年九月五日別紙不動産が競落人の責に帰することのできない理由による火災のため、滅失するに至つたこと
(四) 東京高等裁判所は、右滅失の事実を知らなかつたため、同年一〇月二〇日債務者の抗告を棄却する旨の決定をし、右決定の確定にともない当庁のした第二項掲記の競落許可決定もまた確定するに至つたこと
の事実を認めることができる。
思うに任意競売において競落人が競落不動産の所有権を取得する時期は競落代金を支払つたときと解されている上元来競落許可決定が取り消される可能性のあるかぎり競売の効力も不確定なものというべきであるから、民法第五三五条の趣旨に従い本件競落人は競落許可決定確定前の競落不動産の滅失につき危険を負担しないものと解すべきものである。
従つて本件競落人は競落代金の支払の義務を負わないものと解するほかはない。
なお本件においては競落許可決定が確定しているけれども、その確定当時その目的物が存在しなかつたのであるから、その所有権を競落人に移転させる形成的効力を発揮するに由なかつたものと解するのが相当である。
以上のとおり本件は、競落許可決定の確定にかかわらず競売の目的物が滅失した故を以て主文第一項掲記の競売開始決定を取り消し債権者の本件競売申立を却下すべきものである。
よつて、主文のとおり決定する。
(裁判官 大塚正夫)